この記事では2007年を集計期間とするサウンドスキャン週間シングルチャートのうち、オリコンと1位が異なった全13週をピックアップして回顧する。
この一年間の週間1位変遷表は以下のとおり。回顧対象週には色をつけている。
サウンドスキャンはCD売上枚数を集計しチャートを発表していたサービスであり、いわばオリコンの競合相手である。1996年より年間チャート、2001年より週間チャートが公表されていた。2008年以降はBillboard JAPANによってデータが活用されている。
しかし、長い歴史を持つオリコンが既に権威と知名度を確立していた中で発足した後発サービスであったこともあって、2000年代までのサウンドスキャンは権威と知名度をほとんど有していなかった。
2006年以降は新たな音楽の聴き方としてダウンロードでの購入が無視できない規模に普及しており、RIAJのダウンロード認定もこの年より発足している。よって、ヒットチャートであれば、2006年以降はCD売上だけでなくダウンロード売上も集計すべきだったのだが、オリコンはそれを一向に開始しなかった。結果、この年以降10年以上に渡り「日本音楽ヒットチャートのCD偏重問題」が生じることとなってしまった。
2006年以降は、CD売上チャートだけを見ていても、ヒットの全貌を把握することはできないのである。しかし結局、全国網羅的にダウンロード売上を集計し指数も公開するようなチャートは当時誰も作成しなかったため、2006年以降はヒットチャートが存在せず、オリコンがヒットチャートとして誤使用される時期が長く続いた。
そのため、サウンドスキャンのCD売上チャートを振り返るだけでも2007年のヒットシーンの全貌把握には不十分なのだが、それでもオリコンと比較することにより、当時のヒット認識を少しでも多面的に捉え直すことは可能である。なぜなら、サウンドスキャンでは当時、複数種販売施策に対してオリコンとは異なる集計方法を採っていたからである。サウンドスキャンでは、同一タイトルの異なる盤種の売上は、タイトルごとに合算せず、盤種ごとに別集計としていたのである。本記事ではこの違いに着目しながら振り返りを行っていく。
- 2007/1/23付1位 EXILE『Lovers Again』
- 2007/2/6付1位 秋川雅史『千の風になって』
- 2007/2/13付1位 秋川雅史『千の風になって』
- 2007/4/24付1位 スピッツ『ルキンフォー』
- 2007/5/29付1位 桑田佳祐『明日晴れるかな』
- 2007/7/3付1位 ケツメイシ『また君に会える』
- 2007/7/10付1位 絢香『Jewelry day』
- 2007/7/24付1位 ポルノグラフィティ『リンク』
- 2007/8/14付1位 UVERworld『シャカビーチ~Laka Laka La~』
- 2007/8/21付1位 RSP『Lifetime Respect -女編-』
- 2007/12/4付1位 ケツメイシ『聖なる夜に/冬物語』
- 2007/12/18付1位 ZARD『グロリアス マインド』
- 2008/1/8付1位 すぎもとまさと『吾亦紅』
- 年間チャート
- まとめ
※付日表記はサウンドスキャンに従う
2007/1/23付1位 EXILE『Lovers Again』
2007/1/23付1位はEXILE『Lovers Again』。オリコンではGLAY『100万回のKISS』が1位だったが、その差は数万枚程度しかなかったうえ、サウンドスキャンでは『100万回のKISS』のDVD付限定盤4種と通常盤の売上を別集計としていたため、DVD付限定盤Ⅰが12位、同Ⅱが6位、同Ⅲが10位、同Ⅳが9位、通常盤が15位に売上が分散した。DVD付限定盤Ⅰには「LAYLA」のライブ映像、同Ⅱには「ANSWER」のライブ映像、同Ⅲには「夏音」のライブ映像、同Ⅳには表題曲のライブ映像が付属していたため、全てを入手するには4枚購入が必要であった。なお『Lovers Again』もDVD付属盤と通常盤の2種類で発売されており通常盤が5位となっているが、収録楽曲や映像を入手するうえではDVD付属盤のみの購入で事足りる仕様であったうえ、仮に『100万回のKISS』5種と『Lovers Again』2種の売上を合算して比較したとしてもサウンドスキャンでは『Lovers Again』が上回っていた。
「Lovers Again」は自身「ただ・・・逢いたくて」に続くau「LISMO」CMソングに起用されたウィンターバラード。松尾潔とJin Nakamuraが手掛けた美しいメロディーとグルーヴィーなミドルテンポが支持された。主なデジタル指標ではフル配信125万ダウンロード、着うた200万ダウンロード*1を記録している。
2007/2/6付1位 秋川雅史『千の風になって』
2007/2/6付では秋川雅史『千の風になって』が返り咲き通算2週目の1位を獲得した。オリコンではV6『HONEY BEAT/僕と僕らのあした』が1位だったが、サウンドスキャンでは『HONEY BEAT/僕と僕らのあした』の限定生産盤2種と通常盤の売上を別集計としていたため、限定生産盤Aが2位、同Bが3位、通常盤が4位に売上が分散した。限定生産盤AにはDVDが、同Bにはブックレットが、通常盤にはc/wに新曲が追加で収録されているため、全てを入手するには3枚購入が必要であった。
2007/2/13付1位 秋川雅史『千の風になって』
2007/2/13付では秋川雅史『千の風になって』が2週連続通算3週目の1位を獲得した。オリコンではENDLICHERI☆ENDLICHERI(堂本剛)『空が泣くから』が1位だったが、サウンドスキャンでは『空が泣くから』の初回限定盤と通常盤の売上を別集計としていたため、初回限定盤が2位、通常盤が4位に売上が分散した。なお初回限定盤と通常盤ではc/w曲が異なるため、全収録曲を入手するには2枚購入が必要であった。
2007/4/24付1位 スピッツ『ルキンフォー』
2007/4/24付1位はスピッツ『ルキンフォー』。オリコンではタッキー&翼『×~ダメ~/Crazy Rainbow』が1位だったが、サウンドスキャンでは『×~ダメ~/Crazy Rainbow』のDVD付初回盤2種と通常盤の売上を別集計としていたため、DVD付属盤(ジャケットA)が2位、ワンピースコラボレーションVer.が14位、通常盤が13位に売上が分散した。DVD付属盤(ジャケットA)には表題曲のMVが、ワンピースコラボレーションVer.にはアニメ版MVやブックレット・ステッカーが、通常盤には名刺カードや表題曲のリミックスバージョンが追加で収録されており、全てを入手するには3枚購入が必要であった。
2007/5/29付1位 桑田佳祐『明日晴れるかな』
2007/5/29付では桑田佳祐『明日晴れるかな』が2週連続1位を獲得した。オリコンではV6『ジャスミン/Rainbow』が1位だったが、その差は数千枚程度しかなかったうえ、サウンドスキャンでは『ジャスミン/Rainbow』の初回限定盤2種と通常盤の売上を別集計としていたため、初回限定盤Aが3位、同Bが10位、通常盤が9位に売上が分散した。限定生産盤AにはDVDが、同Bにはブックレットが、通常盤にはc/wに新曲が追加で収録されているため、全てを入手するには3枚購入が必要であった。なお『明日晴れるかな』も初回盤と通常盤の2種類で発売されているが、収録楽曲を入手するうえでは初回盤のみの購入で事足りる仕様であったうえ、仮に『ジャスミン/Rainbow』3種と『明日晴れるかな』2種の売上を合算して比較したとしてもサウンドスキャンでは『明日晴れるかな』が上回っていた。
「明日晴れるかな」は前向きに人生を歩むことを優しく後押ししてくれるようなバラードナンバーで、最高視聴率20%を記録した人気ドラマ『プロポーズ大作戦』の主題歌としても説得力を持ったことで支持を広げた。主なデジタル指標ではフル配信50万ダウンロード、着うた100万ダウンロードを記録している。
2007/7/3付1位 ケツメイシ『また君に会える』
2007/7/3付1位はケツメイシ『また君に会える』。オリコンでは倖田來未『FREAKY』が1位だったが、サウンドスキャンでは『FREAKY』のDVD付属盤と通常盤の売上を別集計としていたため、DVD付属盤が2位、通常盤が3位に売上が分散した。
2007/7/10付1位 絢香『Jewelry day』
2007/7/10付1位は絢香『Jewelry day』。オリコンではERIKA(沢尻エリカ)『FREE』が1位だったが、サウンドスキャンでは『FREE』の初回生産限定盤と通常盤の売上を別集計としていたため、初回生産限定盤が2位、通常盤が16位に売上が分散した。
「Jewelry day」はシンプルなアコースティックサウンドと落ち着きのあるボーカルが安らぎを与えるラブバラードで、映画『ラストラブ』主題歌として書き下ろされた。恋人を失った喪失感の中でも、ともに過ごしたかけがえのない日々への感謝を綴る内容が支持され、デジタル指標ではフル配信35万ダウンロード、着うた100万ダウンロードを記録した。
2007/7/24付1位 ポルノグラフィティ『リンク』
2007/7/24付1位はポルノグラフィティ『リンク』。オリコンでは浜崎あゆみ『glitter/fated』が1位だったが、サウンドスキャンでは『glitter/fated』のDVD付属盤と通常盤の売上を別集計としていたため、DVD付属盤が2位、通常盤が5位に売上が分散した。
2007/8/14付1位 UVERworld『シャカビーチ~Laka Laka La~』
2007/8/14付1位はUVERworld『シャカビーチ~Laka Laka La~』。オリコンではタッキー&翼『SAMURAI』が1位だったが、サウンドスキャンでは『SAMURAI』のDVD付限定生産盤2種と通常盤の売上を別集計としていたため、限定生産盤Aが8位、同Bが12位、通常盤が11位に売上が分散した。限定生産盤Aには表題曲のMVが、同Bにはc/wに収録されている二人のソロ曲のMVが、通常盤にはc/wにボーナストラックが追加で収録されていたため、全てを入手するには3枚購入が必要であった。なお『シャカビーチ~Laka Laka La~』もDVD付初回限定盤と通常盤の2種類で発売されていたが、収録楽曲や映像を入手するうえではDVD付初回限定盤のみの購入で事足りる仕様であった。
「シャカビーチ~Laka Laka La~」は洒落たラテン調のメロディーと盛り上がるサビにより構成されたサマーチューン。ミクスチャーバンドとしてのオリジナリティが発揮されたサウンドや遊び心のある歌詞が人気となった。デジタル指標ではフル配信10万ダウンロードを突破している。
2007/8/21付1位 RSP『Lifetime Respect -女編-』
2007/8/21付では発売2週目のRSP『Lifetime Respect -女編-』が1位に浮上した。オリコンでは小田和正『こころ』が1位だったが、その差は数万枚程度しかなかったため、集計誤差*2によりサウンドスキャンでは『Lifetime Respect -女編-』が1位となった。本曲はデジタル指標でフル配信75万ダウンロード、着うた75万ダウンロードを記録している。
2007/12/4付1位 ケツメイシ『聖なる夜に/冬物語』
2007/12/4付では発売2週目のケツメイシ『聖なる夜に/冬物語』が1位に浮上した。オリコンではTOKIO『青春(SEI SYuN)』が1位だったが、サウンドスキャンでは『青春(SEI SYuN)』の初回限定盤2種と通常盤の売上を別集計としていたため、初回限定盤Aが4位、同Bが10位、通常盤が11位に売上が分散した。初回限定盤Aには表題曲のMVが、同Bにはそのメイキング映像が、通常盤にはc/wに新曲が追加で収録されているため、全てを入手するには3枚購入が必要であった。
2007/12/18付1位 ZARD『グロリアス マインド』
2007/12/18付1位はZARD『グロリアス マインド』。オリコンではV6『way of life』が1位だったが、サウンドスキャンでは『way of life』の初回限定盤2種と通常盤の売上を別集計としていたため、初回限定盤Aが2位、同Bが5位、通常盤が7位に売上が分散した。初回限定盤Aには表題曲のMVが、同Bには表題曲のリミックスバージョンを収録したCDが、通常盤にはc/wに新曲が追加で収録されているため、全てを入手するには3枚購入が必要であった。
2008/1/8付1位 すぎもとまさと『吾亦紅』
2008/1/8付では発売11ヶ月目ながらブレイクが訪れていたすぎもとまさと『吾亦紅』が浮上し自身初の1位を獲得した。オリコンでは年末年始を跨ぐ前週と当週の2週分を合算週として集計・発表しており、SMAP『弾丸ファイター』が発売週に引き続き1位を獲得していたが、『吾亦紅』との差は数千枚程度しかなかった。オリコンは合算週の1位を記録上2週連続1位として扱っているが、もし通常通りに1週ずつ集計していれば、2週目の1位は『吾亦紅』だったのである。
年間チャート
2007年のサウンドスキャン年間シングルチャートTOP10は以下のとおりである。同年のオリコン年間シングルランキングの順位との比較も載せている。
2007年の年間チャートも前年に引き続き、オリコンとサウンドスキャンでは様相が異なっている。
年間1位の秋川雅史『千の風になって』、年間2位の宇多田ヒカル『Flavor Of Life』はオリコンと変わらない結果となったが、オリコンで年間3位のコブクロ『蕾』、同4位の嵐『Love so sweet』、同5位のKAT-TUN『Keep the faith』、同6位のKAT-TUN『喜びの歌』、同7位の桑田佳祐『明日晴れるかな』、同9位のSUPER EIGHT『関風ファイティング』、同10位のNEWS『weeeek』は、サウンドスキャンでは盤種ごとの別集計となっていたため売上が分散し順位を下げた。収録内容を入手するうえでは初回盤のみの購入で事足りた『蕾』や『明日晴れるかな』の順位の下げ幅は1ランクに留まっているが、複数種購入しなければ全ての収録内容を入手できない発売形態となっていた作品は売上の分散量が大きいため順位の下げ幅も拡大している。
このような動きに伴い、Mr.Children『旅立ちの唄』『フェイク』、絢香×コブクロ『WINDING ROAD』、BUMP OF CHICKEN『花の名』といった作品の年間順位が相対的に浮上している。
ただし、冒頭に述べたとおり、この年間チャートはそのまま2007年の年間ヒットチャートとして使用できるわけではない。オリコンやサウンドスキャンが当時集計できていなかったフル配信ダウンロード売上に基づくヒットデータと、それをCD売上と合算して推定した年間楽曲人気ランキングは以下記事でまとめている。
まとめ
以上が2007年の年間チャートと、その集計期間内のサウンドスキャン週間シングルチャートのうちオリコンと1位が異なる週の振り返りとなる。
繰り返しになるが、2006年以降はCD売上チャートだけでヒットシーン全体を俯瞰することができない。その結果はあくまでCD市場という一側面を切り取ったものに過ぎない点には十分注意する必要がある。一方で、オリコンランキングのみで当時のCD市場動向を把握しようとすることもまた、本記事で述べたように、多分にミスリーディングな要素を含んでいる。したがって、今からでも当時のサウンドスキャン週間シングルチャートの結果を確認しておく価値は大いにある。
2008年からは、このサウンドスキャンのデータが活用される形で、いよいよ新しい総合チャートであるBillboard JAPAN Hot 100が発足する。
(次年2008年のBillboard JAPAN Hot 100週間チャート回顧に続く↓)
(前年2006年のサウンドスキャン週間シングルチャートは以下↓)