昨日の午後、ワイは谷の縁からフェミちゃんを連れて、なんとか家まで戻ってきた。彼女は終始無言やったが、抵抗もせんかった。ただ、歩くときの足取りがやけに均一で、機械仕掛けの人形みたいやった。ゴミーはワイの後ろをふわふわと飛びながら、何度もフェミちゃんの顔をのぞき込んでいたけど、そのたびに目を伏せるようにして飛び去っていた。
その夜は、妙に重たい眠気に襲われて、布団に入るやいなや意識が沈んだ。夢の中でワイは、滑稽な仮面をかぶった連中に囲まれた。みな口々に笑いながら、「女神はまだ覚めない」「女神はまだ溶けてない」と唱えてた。その笑い声が、次第に地鳴りに変わって、ワイの足元が割れていく。最後にフェミちゃんが仮面を外して、まったく知らん顔でワイを指差して笑った。
汗びっしょりで目を覚ました瞬間、部屋の中は妙に静まり返っとった。そして、寝返りを打とうとしたワイの視界に、光を反射する銀の線が映った。フェミちゃんや。立ったまま、無表情で、片手にナイフを持って、ワイをじっと見とる。
咄嗟に身を起こそうとしたそのとき、ポケットに入れていたスーリヤの針が、唐突に激しく発光した。白金色の光が部屋中に満ちて、まるで太陽の破片が室内で爆ぜたみたいやった。その光がフェミちゃんの手元に届いた瞬間、彼女の体が一瞬ぶるりと震えて、ナイフを取り落とした。
呼びかけたが、彼女はそのままくたりと崩れ落ちた。ワイは駆け寄り、倒れた彼女の肩を抱き起こした。体は温かい。でも、その目は閉じたまま、口元はかすかに何かを呟いとるようやった。
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