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「エキストラ5000人」も実現
映画やテレビドラマなどのロケの誘致に力を入れている愛知県豊橋市。活動しているのは、市職員や市民らで組織する一般社団法人「とよはしフィルムコミッション(FC)」だ。制作サイドのニーズをくみ取る気配りの支援で実績を積み上げており、ロケの街として定着しつつある。
市の繁華街・広小路通りで4月25日、バラエティー番組のロケが行われた。「ここは、撮影で歩行者天国になります」。FCのスタッフが、路肩に停車している車のドライバーに場所を移動してもらうよう呼びかけていた。
ロケにエキストラとして参加した豊橋市の保育教諭、金原愛子さん(46)は「自分たちの街で撮影が行われ、自分も登場できるなんて、ますます街が好きになる」と話した。
2022年12月に設立されたFCが目指すのは多くのロケを誘致して市の知名度を上げ、市民に地元への愛着を持ってもらうこと。かつては地元有志や市が誘致活動を担っていたが、さらに推し進めようと法人化した。
誘致にあたって掲げている理念は、「不可能を可能にする」「NOと言わない」「かゆい所に手が届く」。制作サイドにとことん寄り添う姿勢で、信頼を勝ち取ってきたとされる。
例えば、市内のロケ候補地は「城跡・神社仏閣」「学校」などのカテゴリー別にデータベース化してある。監督や演出家が、作品のイメージに合う場所を探しやすくする気配りだ。
スタッフの宿泊や弁当の手配もお手の物で、要望があればエキストラも集める。市民の中から、撮影を手伝ってくれる人を登録しておき、いつでも出動できる態勢を整えている。
これまでに誘致したロケはFCの設立前を含めると、300を超える。誘致活動を軌道に乗せた最大の功労者は、FC専務理事だった鈴木恵子さん=写真、とよはしFC提供=だ。大手旅行会社での勤務経験を生かし、ご当地グルメとして「豊橋カレーうどん」を考案するなど、23年に71歳で亡くなるまで四半世紀にわたり、生まれ育った豊橋市の観光振興に取り組んだという。
今も語り継がれているのが、17年に放送されたTBS系ドラマ「陸王」のロケだ。マラソン大会の場面を撮るため、5000人以上のエキストラを集めたり、警察など関係機関と粘り強く交渉して市の大動脈である国道1号を通行止めにしたりし、大がかりな撮影に貢献した。
TBSテレビの福沢克雄監督は「大勢のエキストラを二つ返事で集めてくれたり、道路封鎖の大規模ロケなど難しい要望にもチャレンジしてくれたりと、他では出来ないような撮影ができる」と信頼を寄せる。
とよはしFC事務局長の藤沢英樹さん(56)は「恵子さんが築いてくれたものを受け継ぎ、ロケの街・豊橋をさらに確立していきたい」と語った。
(中部支社 原田展)
愛知県の南東端に位置する東三河地方の中心都市。人口36万7142人(4月1日現在)。東海地方で唯一の路面電車が走る。農業は全国でもトップクラスの生産額を誇る。豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)は、動物園、植物園、自然史博物館、遊園地が一体になった国内有数の総合公園として人気。プロバスケットボール・Bリーグ1部の三遠ネオフェニックスのホームタウンで、今季、中地区で初優勝を飾っている。
知名度向上 観光客増に期待
日本のフィルムコミッション(FC)は、2000年に設立された大阪ロケーション・サービス協議会(現在は大阪フィルム・カウンシル)が始まりとされる。これ以降も各地で発足しており、ジャパン・フィルムコミッション(東京)の調べによると、全国のFCは23年度時点で396団体に上る。
FCは一般的に無償で制作の支援を行う。地元にとっては、制作陣の滞在費や機材レンタルなどによる経済効果が見込まれる。マスメディアへの露出で知名度が上がり、観光客の増加が期待されるといったメリットもある。このため、各地のFCが誘致合戦を繰り広げている。