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つづら折りの国道の周りに棚田が広がり、春には桜の大木が見事な花を咲かせる。かつては旅館が立ち並んだというが、東温市河之内地区の人口は約300人。65歳以上の高齢者が60%を超え、地域の存続が危ぶまれる「限界集落」だ。龍にまつわる言い伝えが残る「龍の谷」の四季折々の様子とともに、過疎化が進む里山で明るく過ごす住民たちの姿を追う。(住田勝宏)
14日、金毘羅寺の参道に、子どもたちの声が響いた。稚児行列の9人はきらびやかな衣装に身を包み、先導者に続いて本堂までの石段を上がっていった。春の大祭「お
以前は10日に行われていたが、平日だと人が集まらず、約10年前から第2日曜に開くように。合併して東温市になる前の「川内町誌」によると、明治末期までは前日に宵祭りが開かれるほど盛大で、参道には数十軒の露店が出たという。しかし、近年は店も出ず、ひっそりとしていた。
にぎわいを取り戻そうと動いたのが、寺の隣にある
即席のステージでは、同市出身の俳優・岩ゲントさん(54)と、シンガー・ソングライターのNicoさん(41)が殺陣や歌で盛り上げた。2人は祭りのために創作した「龍神舞」を初披露した。地域に伝わる龍神伝説などを基にしている。
地区内には、雨滝など、龍に縁があるとされる場所が幾つもある。明治初期、同神社に
伝統を踏まえ、現代らしい挑戦も盛り込んだイベントは好評だった。訪れた人たちは「楽しかった」「にぎやかでいい」と笑顔を見せた。
佐伯宮司は「限界集落のイメージが変わる一歩になれば」と話す。獄山住職も「外にPRしていないので参加人数は変わらないけど、少しにぎやかになった。これをきっかけに地区が元気になってくれたら」と手応えを口にした。
記者が河之内地区を初めて訪れたのは今年1月。惣河内神社の龍のしめ飾りを取材するためだった。地元の大人や小学生が作ったもので、風情ある本殿の廊下には全長12メートルの「龍」が横たわっていた。巨大な龍に圧倒されつつ、地域ぐるみのしめ飾り作りを発案した経緯を尋ねると、佐伯宮司は「限界集落を元気にしないと」と繰り返した。
日本の人口減対策は待ったなしだ。民間有識者らでつくる「人口戦略会議」は今月、全国の4割以上にあたる744自治体が「消滅可能性がある」とする報告書を公表した。
そんな中、河之内の人たちは将来を悲観せず、地域を活気づけようとしているように見えた。春から1年間、地区の様子をリポートしたら、心豊かに暮らすヒントが得られるのではないか。それが「河之内通信」の出発点だ。
3月22日、市立東谷小学校の卒業式には高齢者ら約40人も「参加」した。正門近くに色とりどりのチューリップで花の道をつくり、卒業生6人の門出を祝福した。
農業を営む浅野和雄さん(76)は、卒業生の孫、
浅野さんは14年前から、「古里の人たちがどうやって暮らしてきたのか、心に刻んでほしい」と、仲間と一緒に児童に稲作体験を教えている。今年ももうすぐ、田植えの季節がやって来る。
(随時掲載)
<限界集落> 1990年頃に提唱された概念で、「65歳以上の高齢者が集落人口の半数を超え、冠婚葬祭や田畑の仕事などの社会的共同生活の維持が困難な状況に置かれている集落」を指す。総務省によると、全国に2万372集落(2019年4月現在)あり、県の調査では、約1400集落(23年4月現在)が確認されている。