[go: up one dir, main page]

長編アニメ「化け猫あんずちゃん」、カンヌ映画祭で公式上映…37歳の「おっさん猫」が爆笑誘う

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 今年のカンヌ国際映画祭は、アニメーション映画制作会社「スタジオジブリ」に名誉パルムドールを授与したように“アニメ推し”です。コンペティションやその他の部門に数々のアニメ作品を選んでいます。独立部門「監督週間」にも日本の2作品が招待され、21日に長編アニメ「化け猫あんずちゃん」が公式上映されました。上映直後に「ダブル監督」としてタッグを組んだ久野遥子・山下 敦弘のぶひろ 両監督などに制作の裏側を聞きました。(文化部 松田拓也)

カンヌ映画祭、女優賞発表に役所広司さんがサプライズ登壇…パルムドールは「アノーラ」

フランスの観客の心つかむ

公式上映後、観客の歓声に応える「化け猫あんずちゃん」の久野遥子監督(右)、山下敦弘監督
公式上映後、観客の歓声に応える「化け猫あんずちゃん」の久野遥子監督(右)、山下敦弘監督

 日本では7月19日に公開予定の「化け猫あんずちゃん」は、いましろたかしさんの同名漫画を映画化した作品です。主人公は30年以上も生きて人間の言葉を話せるようになった化け猫・あんず。子猫の時に拾ってくれた和尚のお寺で暮らしているところに、行方知れずだった和尚の息子が11歳の娘・かりんを連れて帰省してきます。しかし、和尚とけんかした息子は「母さんの命日に戻る」とかりんに言い残して去ってしまい、あんずは、かりんの世話を頼まれます。

 「監督週間」の計らいにより、大勢の地元の子どもたちも招かれた公式上映では、あんずが原付きバイクに乗って登場し、頼まれごとに「了解まんニャ~」と話しただけで爆笑が起きました。年齢は37歳で、しぐさもすっかり“おっさん”のあんずがオナラをしたり、かりんと出会った小学生が顔を赤らめたり……。様々な場面で大人も子供も笑いを誘われつつ、途中から妖怪や魔物、そしてまさかの「 閻魔えんま 大王」まで登場する物語はフランスの観客の心にも響いたようです。上映終了後の会場は大きな拍手に包まれました。

「化け猫あんずちゃん」 (C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会
「化け猫あんずちゃん」 (C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

 「リンダ リンダ リンダ」「カラオケ行こ!」などの山下監督と、映画「クレヨンしんちゃん」のキャラクターデザインなどに携わり、今回が初長編作となる1990年生まれの気鋭・久野監督。2人とも初のカンヌで、上映後の囲み取材では「初めて見たような感覚になり、しみいりました」と久野監督は興奮冷めやらぬ様子。山下監督も「初めてのスタンディングオベーションで、どうしたらいいか分からず自分も拍手していました。オナラも笑ってもらえて、狙い通りでした」と声を弾ませていました。

「長回し」も見所

 上映会場から移動して、美しい海を臨むビーチのそばで2人に話を聞きました。

「化け猫あんずちゃん」の久野遥子監督(右)と山下敦弘監督
「化け猫あんずちゃん」の久野遥子監督(右)と山下敦弘監督

 今作は、実写映像を基にアニメーションを制作する「ロトスコープ」と呼ばれる手法を採用しています。あんずを演じたのはダンサーとしても評価が高い俳優の森山未來さん。山下監督の演出のもと、実写映画と同様に森山さんが動き、話す姿を撮影し、その映像や音声に基いて久野監督がスタッフとアニメーションを作り上げました。

 猫っぽさを全身で表現した森山さんの演技ぶりに加え、実写映画で言うところの「長回し」も見どころです。「山下監督は、役者さんの芝居や間合いが一番良い形で見えることを第一に演出される。その結果、ワンカットがすごく長いんです」と話す久野監督。アニメでは6、7秒、短い場合は1秒未満のカットが一般的だそうですが、今回は30秒超えが多く、1分を超えるものも複数あり、作業は大変だったそう。山下監督は「一般的なアニメにない気持ちよさを感じられる作品になりました」と手応えを語っていました。

きっかけは10年前

 今作が生まれたきっかけはアニメ制作会社「シンエイ動画」の近藤慶一プロデューサーが約10年前、山下監督のもとで助監督を務めていた時にさかのぼります。

「化け猫あんずちゃん」ポスタービジュアル (C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会
「化け猫あんずちゃん」ポスタービジュアル (C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

 当時、制作プロダクションの事務所に山下監督が「誰かの目に止まれば」と、漫画「化け猫あんずちゃん」を置いていたそう。それを作業中に偶然、読んだ近藤さんに「これやりたいんだよね、と何となく言ったらしい」(山下監督)。その後、岩井俊二監督の長編アニメ「花とアリス殺人事件」(2015年)の助監督を務めた近藤さんは、同作で“ロトスコープアニメーションディレクター”を担った久野監督と出会います。

 この二人となら「あんずちゃん」を映像化できるんじゃないか――。近藤さんがそんな発想を得てから、完成までには約8年がかかりました。国内からの出資だけでは資金が足りないという問題にも直面しましたが、仏のアニメスタジオ「MIYUプロダクション」から作品作りのオファーを受けた久野監督が「あんずちゃんを一緒に作りませんか」と“逆オファー”。同社とタッグを組むことになった縁も後押しとなり、日仏合作の作品としてカンヌにたどりつきました。

「化け猫あんずちゃん」の公式上映に来場した大勢の子どもたち
「化け猫あんずちゃん」の公式上映に来場した大勢の子どもたち

 両監督ともまたカンヌに来たいという意欲を示しつつ、久野監督は「どういうふうにアニメを作っていったらいいのか、ある意味わからなくなりました。2本目も初めてのことをした方がいいんだろうなとは思いながらも、(カンヌを)意識しすぎるとだめになっちゃう気もします」と慎重な様子。山下監督は「(今回の経験に)どう自分が影響を受けるか、次の作品以降で分かってくるんじゃないでしょうか。『山下、カンヌ意識しだしたな』と思われるかもしれません」と笑っていました。新境地を切り開き、カンヌも経験した2人の今後も、ますます楽しみになりました。

カンヌ映画祭の最新ニュースはこちら
スクラップは会員限定です

使い方
「エンタメ・文化」の最新記事一覧
記事に関する報告
5389997 0 映画 2024/05/23 16:22:00 2024/05/23 16:43:12 /media/2024/05/20240523-OYT1I50136-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

セレクション

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)