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部活動の地域展開 学校と教員に期待すること(田嶋幸三)

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これまで学校が担っていたスポーツなどの部活動を、地域社会に広げていく国の改革が進んでいる。「2031年度までの6年間で、すべての公立中学校の休日の部活動を地域のクラブなどに移す『地域展開』を完了させ、平日も段階的移行をめざす」――。5月のスポーツ庁と文化庁の有識者会議で、こんな内容の報告書がまとまった。

この国のスポーツのかたちを大きく左右する大事なかじ取りだ。これまでの議論で使われていた「部活動の地域移行」という言葉が「地域展開」に改められたのは、部活を学校から完全に切り離すのは難しいという認識が強まったからかもしれない。

受け皿となる地域社会のヒト・モノ・カネに不足がある以上、たしかに難しいと私も思う。また切り離すべきでもない。グラウンドや体育館などの施設を所有する学校には引き続き、部活に深くかかわってもらいたいと願っている。

教員の労に報いる金銭的対価を

そもそもこの改革はその出発点において、主役であるはずの子どもの目線に合わせるよりも「教員の働き方改革」を優先していたように思われ、ずっと引っかかりを感じていた。

私もまた、若いころは高校の教員になってサッカーの指導をしたいと考えていた人間だ。部活を通じて、子どもたちの人間的な成長に手を貸してきた学校の先生がたが大勢いらっしゃるのを知っている。見返りを求めず、ときにはみずからの家庭も顧みない教員たちの巨大な奉仕活動が、日本のスポーツ界を支えてきたのである。

しかしながら、こうした時間外労働は誰かに強要されてよいものではない。いまの社会通念上、法外な使役が許されるはずもない。それはまさしくその通り。

その一方で、ぜひとも顧問や指導を引き受けたいと思っている教員の情熱に、わざわざ国や制度が冷や水を浴びせてあきらめさせる理由もないと思う。部活の地域展開を論ずるのであれば、なんらかの金銭的対価をもって彼らの努力と苦労に報いる方策を、それぞれの地域ごとに講ずるべきだと思うのだ。

「サッカー界には、すでにJリーグのクラブが全国にあるではありませんか。学校のサッカー部がなくなっても、クラブの下部組織が選手を育てればよいのでは?」と、よく言われる。だが学校の部活とは、文部科学省が学習指導要領において教育的価値を認めた活動だ。プロの選手を育てるためのものではなく、教育活動であることを肝に銘じたい。

子どもの選択の自由を守ろう

地域で展開される新たな部活に、サッカー界から指導者を送り出すことも無論あるだろう。地域の要望には丁寧に応ずるべきだが、部活が町のクラブや道場、学習塾と同列の習いごとになってしまったら、会費を払えない家庭の子は入部をはばかるようになるのではないか。

教員に手当を配るにしても、財源をどこから捻出するか。国がすべてを引き受けてくれるとも思えず、結局は受益者負担となるのかもしれない。だが、それぞれの子どもの「家庭の事情」をいちばんよく知っているのは学校の先生だ。事情をくんで月謝を免除するなどして、負担を軽くしてあげられるのも学校の先生だ。雇われのコーチとはそこが違う。

数年前にお会いした駐日オーストラリア大使(当時)のジャン・エリザベス・アダムズさんは「ブカツ」という日本独特の課外活動の形態を、言葉を尽くして褒めてくださった。その最大のメリットは、スポーツでも演劇でもブラスバンドでも、貧富の別なく誰もが好きな活動を選べることにある。改革の目的も、子どもたちの選択の自由を守り続けることであってほしい。

(国際サッカー連盟〈FIFA〉カウンシルメンバー)

たしま・こうぞう 1957年熊本県生まれ。80年筑波大学体育専門学群を卒業、83年からドイツに留学し指導者ライセンスを取得。日本サッカー協会で指導者養成、代表強化に携わった。2001年に17歳以下ワールドカップの監督を務め、16年から24年まで同協会会長。15年からFIFAカウンシルメンバー(理事)。7試合の日本代表出場歴がある。

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日本サッカー 百年の計

国際サッカー連盟(FIFA)カウンシルメンバーの田嶋幸三さんが日本サッカーの「これまで」を振り返り、「これから」に思いをはせる寄稿コラムです。

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