サッカーPSGライバルのPFC、後ろ盾はLVMH パリダービー来季実現
スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ

華麗なサッカーで欧州チャンピオンズリーグ(CL)を勝ち上がっているパリ・サンジェルマン(PSG)にヨーロッパ中のサッカーファンが喝采を送るまっただ中にあって、フランスのスポーツ紙「レキップ」は先日、パリに拠点を置くもう一つのチーム「パリ・フットボール・クラブ(PFC)」を1面で取り上げるという決断をした。こんなことは前例がない。
PFCは先日、1970年代以来となるフランス1部リーグ復帰を決めた。パリのファンは来季、PSGとの「パリダービー」が見られることになったのだ。
パリのサッカーチームには、2部所属ながら好感度の高い郊外の「レッドスターFC93」や、1896年創設の伝統と輝かしい歴史を誇る「ラシン・クラブ・ド・フランス」がある。だが、最高峰のリーグに戻ったのは「第3の存在」ともいうべきPFCだった。

1969年のPFC創設に携わり、73年まで初代会長を務めたのは私の祖父のピエール=エティエンヌ・グィーヨだった。祖父は70年に発足したPSGとの合併にも関わったが、それは結局短命に終わり、両クラブは別々の道を歩むことになった。
日本ではなじみの薄いPFCはここ数カ月、フランスのサッカー界の熱い話題となってきた。1部リーグ復帰に先立ち、フランス一の富豪であり、世界でも有数の資産家アルノー家がクラブの大株主になったのだ。いわずと知れた高級ブランド、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのオーナー一族である。
サッカーに投資するよう一族の総帥ベルナール氏を口説いたのは息子のアントワーヌ氏だった。中田英寿の友人でもある彼は大のサッカー好きだ。LVMHは2024年パリ五輪のスポンサーにもなって話題を呼んだ。彼らがクラブを直接運営することはないとしても、何かしらの相乗効果はあるだろう。(PSGのディオールのように、PFCの正装をルイ・ヴィトンが提供することになるのだろうか)

アルノー家は単独で乗り込んできたのではない。アカデミーを充実させるため、彼らが声をかけたのがレッドブル・グループ。サッカー部門の責任者ユルゲン・クロップ氏はドイツ・ブンデスリーガやイングランド・プレミアリーグの監督を歴任してきた名将だ。
昨年までリバプールの監督だったクロップ氏がすぐにPFCを率いるわけではないが、若手育成に関して多くの助言をするだろう。PFCには、PSGのように多くのスターを獲得する考えはない。2000年以降、世界最高レベルの才能の宝庫となっているパリ周辺の地の利を生かし、生え抜きを中心に地域に根ざしたチームをつくろうとしている。

欧州の多くの都市には複数の強豪チームが共存する。ロンドンには7つもの1部チームがあることを考えると、パリにひとつしかないのは少なすぎた。PFCの昇格により、パリはミラノ、ローマ、バルセロナ、ベルリン、マンチェスターなどと並ぶ真のサッカーの都になる。
パリ五輪が象徴していたスポーツの「ソフトパワー」を街の発展のために活用したいフランスやパリにとって、2つの1部リーグチームをもつ意義は大きい。ロシアとウクライナの紛争もあって欧州の先行きは不透明だが、パリは世界に冠たる文化都市であり続けるという使命を自らに課している。そして現在、スポーツは多様な文化を発信しようという都市にとって欠かせないピースだ。
パリ市民は近年、中流階級にとっても高根の花となってしまったPSGのチケット価格に不満を漏らしている。PFCは昨年末、地域の一体感や連帯感を高めるために、本拠地での試合を入場無料にするという素晴らしい取り組みを行った。クラブはシーズン終盤の重要な試合でも入場無料を実施すると発表している。PSGを生観戦できないパリジャンに、PFCのこうした施策は間違いなく響く。

古くからスポーツファンには2つのタイプがいる。ひとつはスター軍団に魅力を感じ、勝利に至上の喜びを感じる人たち(レアル・マドリードや、米大リーグ・ヤンキースなどのファンを思い浮かべてほしい)。もうひとつは愛するクラブと人間的なつながりをもつことを欲し、勝っても負けても苦楽をともにしたい人たちだ。
シャンゼリゼ通りの真ん中に鎮座するPSGの公式グッズショップと対照的に、PFCにはショップがなく、試合当日の本拠地では小さなトラックがグッズを販売している。でも、PFCの試合日にパリに居合わせることがあったら、ストールや帽子を迷わずに買っておくことを勧めたい。数年後には貴重なコレクターズアイテムになっているかもしれない。











