7月19日に公開した記事では、AIと学校教育の関係について、宮崎大学教育学部の取り組みをご紹介した。学校教育にAIを取り入れる試みは、学習指導要領の改訂を受けて2020年ごろからすでに始まっており、全国でも少しずつ研究事例が聞かれるようになってきた。
7月17日にベネッセコーポレーションが発表したところによると、全国の小学3年生から6年生の保護者1032組にアンケート調査を行い、「生成AIがどのようなものかを知っている保護者」のうち、66%が利用に肯定的という結果が出たという。
利用に肯定的な保護者の意見でもっとも多いのは、「新しい技術の活用力を養うよい機会になりそうだから」、一方否定的な保護者の回答理由でもっとも多いのは「自分で考えなくなりそうだから」となっている。どちらももっともな声だと思う。
子どもにAIを使わせるとはいっても、その目的がAI活用スキルを研いて使いこなせるようにすることと、ドリルのような学習ツールとして使っていくのとでは、実施方法も違うし得られるものがだいぶ違う。
この2つのアプローチの違いは、今後AIと教育を語る上で欠かせない区別となっていくだろう。
いま日本の社会で圧倒的に不足しているのは、AIを活用できる人材だ。これはAIを使って何らかの開発行為を行うエンジニアが不足しているという面と、日常業務にAIを活用することで効率化が図れる人材が不足しているという面がある。
エンジニア不足に対応する取り組みとしては、AWSが開設した「生成AI開発が学べるトレーニングコース」を取材した。AIを活用した業務改善については、リートンテクノロジーズジャパンが主催する「プロンプトソン」がある。
これらの活動は、大学生や社会人を対象に、「今々の課題の解決」をもたらす。一方で社会のあちこちにAIによるものが登場し始めている中、大学生や社会人になってから初めてAIを学ぶので間に合うのか、という懸念がある。つまり中学や高校卒業で社会に出る子ども達が、AIの世界から切り離されることが前提になるのは、マズいわけだ。
フリッツ・ラングの映画「メトロポリス」は、知的指導者と労働者とが分断された階級社会の問題点を浮き彫りにした、1926年制作の作品である。この舞台は制作時の100年後の未来都市を想定しており、まさにそれは「今」なのだ。
子ども達には、いつ頃からAIそのものを学び、活用する教育を施すべきか。中学校の技術科で唯一の学会である、日本産業技術教育学会(JSTE)の答えは、中学校だ。同学会では次回の学習指導要領改訂へむけて、5月に要望書を公開した。
現在の小中学校では、一部先進校に指定された学校でSTEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)教育が実践されている。これはそれぞれを学ぶという事ではなく、多彩な分野を全て関連性を持たせた格好で学んでいこうという考え方だ。
JSTEの要望書では、小学校から高校までの教育の見直しが提言されているが、目玉は中学校における「テクノロジー科の新設」だろう。中学校技術科は、社会がIT化へ向かうことによってその存在が重要視された……割には、授業数は家庭科と合わせて年間で70時間程度しかない(自治体によって違いはある)。筆者の時代は、男子は技術科、女子は家庭科に別れていたが、現在は男女ともに技術科と家庭科を学ぶ。結果的に、筆者の時代よりも技術科に割く時間数は減っている可能性すらある。
そこで、現在行われている技術・家庭科を再編して、具体的には家庭科と分離して、単独の教科にし、年間70時間を確保しようというわけだ。学習内容としては、コンピュータサイエンス、情報通信ネットワーク、プログラミング、情報コンテンツ、AIの活用と実装、IoTの構築と活用などとなっており、高校における「情報I」の内容にも通じるところがある。
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