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“PoC止まり”の生成AIプロジェクトに終止符を PepsiCoのAWS活用事例に学ぶCIO Dive

企業の生成AIプロジェクトに具体的な成果が求められる段階になっている。PoCから抜け出して事業に貢献するにはどうすればよいのか。PepsiCoの「Amazon Bedrock」導入事例が参考になりそうだ。

» 2025年07月24日 08時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

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CIO Dive

 大半の企業はどのユースケースにAIを活用すべきかについて悩み、パイロットプロジェクトから前進できずにいる。テクノロジーリーダーは適切な戦略を採用し、進むべき道を示さなければならない。

AI活用を成功させる“二重のアプローチ”

 大手飲料メーカーPepsiCoのアシナ・カニオウラ氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフストラテジー&トランスフォーメーションオフィサー)は「AIに関する取り組みの成果を求める圧力が高まる中、当社はプロジェクトの優先順位付けに手応えを感じ始めている」と述べた。

 カニオウラ氏は『CIO Dive』に対して次のように語った。

 「全ての企業に当てはまるルールは存在しない。しかし、これまで成功を収めてきた私たちのやり方は、企業に必要な生成AIの能力に焦点を明確に当てつつ、従業員がある程度自由に試行錯誤できる環境を与えるというものだ」

 また、カニオウラ氏は「この二重のアプローチがリソースを過度に消耗したり、無数のパイロットプロジェクトに埋もれたりすることなく、イノベーションを実現し従業員のエンゲージメントを高めるために役立っている」と述べた。

 「イノベーションを抑制するつもりはないが、最も重要な分野における投資から、大きなリターンを得る方向に進む必要がある」(カニオウラ氏)

 PepsiCoは従業員がツールを自由にテストできる社内用サンドボックスを構築した。このプラットフォームは「PepGenX」と呼ばれ、PepsiCoがAmazon Web Services(AWS)と締結した複数年にわたる契約の一環として(注1)「Amazon Bedrock」と統合され、アプリケーション開発の柔軟性と能力を向上させている。

 生成AIが注目を集め始めた当初、多くの企業は幅広い取り組みを進め、ハッカソンを開催したり導入アイデアを募集したりしていた。最近では、より広範なビジネス目標に最も合致するユースケースを見極めることに焦点が移っているが(注2)、それは容易ではないようだ。Snowflakeの調査によると(注3)、ITおよびビジネスリーダーの半数以上が「コストおよびビジネスへの影響、実行可能性といった指標に基づいて適切なユースケースを選ぶのは難しい」と答えている。

 多くの企業がAIの取り組みの大半を断念し(注4)、パイロットプロジェクトを縮小するなかで(注5)、テクノロジーリーダーはプロジェクトをより迅速に進め(注6)、本格導入へと移行させるプレッシャーに直面している。

 カニオウラ氏は「私たちには、4つないし5つの大きな賭けがあり、それが投資の指針となりチームの連携を促進している」と述べた。例えば、イノベーションや人材管理の再考を支援するためにAIを活用しているという。同社は生成AIを製品ライフサイクルの管理プロセスに組み込み、レシピや販売に関する情報を管理している。

 「構造化データと非構造化データによって構成される宇宙を想像してみてほしい。私たちは今、その全体の処理サイクルを数カ月から非常に短い期間に短縮することに成功している」(カニオウラ氏)

 また、PepsiCoはAIによって異なる情報源やシステムをつなげることで、保険契約の詳細からノートPCのメンテナンス方法に至るまで、従業員が情報に簡単にアクセスできるようにしている。

 「全てをイチから作り直すことなく、従業員がこれらの情報に容易にアクセスできるようになった。北米での本格展開において優れた成果が得られ、現在は世界各地への展開を進めているところだ」(カニオウラ氏)

 カニオウラ氏は「大きな賭け」に注目し、それらが設定されたKPIに対してどのように進捗しているかを注意深く見守っている。同時に、社内用サンドボックスは企業のより広範な目標達成に役立っている。

 「それは従業員が技術に慣れ親しむ助けになる。単なる遊びの場ではなく、その価値を理解し、やがてアンバサダーとなる場所だ」(カニオウラ氏)

AIエージェントを活用して前進する

 2025年の後半にさしかかり、多くの企業がAIエージェントによる業務効率の向上に注目している。PepsiCoもその流れに加わっており、数年にわたるデジタル変革への投資と、クラウドやデータ活用の進展を経て、現在はAIエージェントにリソースを集中させている。

 「多くの人は、特にデータ基盤などの土台づくりへの投資の重要性を過小評価しているが、それはAI活用の前提条件だ」(カニオウラ氏)

 そのような過小評価から痛い目をみた企業も存在する。

 2024年3月に発表されたAccentureの報告によると(注7)、経営幹部の40%未満が生成AIツールを大規模に導入しているが、この技術から大きな価値を得たと考えているのはわずか13%だ。主な原因はデータの準備不足だという。データの問題は信頼を損ね(注8)、プロジェクトの遅延やコスト増加を招く可能性があるのだ。

 PepsiCoのデジタルトランスフォーメーションの歩みは、クラウドファーストのアプローチに大きく依存している(注9)。同社の経営幹部は「取り組みがデータ戦略をより良い状態に置くことに貢献した」と述べている(注10)。

 「仮にこれまでにあらゆる変革や対応をしていなかったら、AIエージェントの導入は不可能だっただろう」(カニオウラ氏)

 まだ初期段階にあるものの、PepsiCoはAIエージェントが従業員と顧客の体験をどのように改善できるかを模索している。その過程でパートナーシップが大きな役割を果たしている。

 カニオウラ氏は次のように述べた。

 「社内のエンジニアリングチームが全てを開発できるわけではないし、そうする意味もない。購入すべきものと内部で開発すべきものに適切なバランスがあると考えている。コモディティ化したものは購入し、ニッチな領域にあり競争優位性につながるものは社内で開発すべきだ」

 PepsiCoはベンダーを審査するための厳格なプロセスを持っており、決定の前に複数の候補先から話を聞くことが多い。選定の際、同社はベンダーのロードマップおよび業界の状況に対する理解、能力などを考慮しているという。

 「私は相手に本気度を示してほしいと考えている」(カニオウラ氏)

 PepsiCoにとって、自社向けにカスタマイズできるよう柔軟に対応してくれるベンダーと協力できることは大きな価値の一つだ。

 「当社向けに100%カスタマイズされた製品やサービスは存在しない。極端な外注には賛成しないし、企業は常に自らの運命に責任を持つ必要がある。内部のソフトウェアエンジニアやエンタープライズアーキテクト、データエンジニア、機械学習(ML)を含むAIエンジニア、インフラおよびオペレーションの専門家による強固な技術基盤を持つことが、私たちの組織の成功にとって非常に重要だ」

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