抹茶が世界的ブーム 古くからの宇治の茶商は需要急増にどう対応

動画説明, 抹茶を求めて世界から大勢が宇治へ……すぐには増やせないと茶商

ヘンリー・リッジウェル BBCポーランド語

京都府宇治市にある中村藤吉本店の前には、猛暑の中でも、早朝から行列ができ始める。宇治は多くの人にとって、抹茶の心の故郷だ。

鮮やかな緑色の抹茶は、うま味豊かなその味わいに加え、健康効果があるとされることから評価され、今や世界的なブームとなっている。

熱心な抹茶ファンは、究極の目的地として宇治を目指す。しかし地元の抹茶生産者は、需要に供給が追いつかず、抹茶が品薄だと心配する。

道路に面した和風の建物。白壁に茶色の格子、かわらのひさしや屋根。そこに、丸に十字の紋や「中村銘茶」「茶」といった文字が書かれた、白いのれんや幕がかかっている。ひさしの上には茶色い板に金で「茶」と書かれた看板も立つ。店の前に数人の行列ができている
画像説明, 宇治市の茶商「中村藤吉商店」は1854年創業。皇室にも茶を献上している

Z世代

中村藤吉本店は宇治市の中心に店を170年間構え、皇室にも茶を納めてきた。宇治には同じように、古くからの茶商が複数ある。

伝統的に、最高品質の抹茶は湯で点(た)て、やや苦味のある茶にし、茶事や茶席で出される。

日本国内では長年、抹茶の販売量は減少傾向にある。今では、その半分以上が海外に輸出されている。

そして、宇治の茶商を新しく訪れるようになった典型的な客は、これまでの客層とは大きく違う。新しい客たちは若く、国際的で、最高の抹茶に惜しみなくお金を使い、ソーシャルメディアに投稿するような人たちだ。

棚に置かれた灰色の抹茶の缶に白字で「MATCHA PREMIUM HATSU MUKASHI」と印刷されている。その隣には「別製初昔 "壱號" 20g缶入/¥60,000」と書かれた値札が並ぶ
画像説明, 中村藤吉本店で売られる抹茶には、20グラム6万円のものもある

世界的な抹茶ブームは、抹茶を食材として使うことで、加速している。飲み物、アイスクリーム、ケーキ、ラーメンなどなどだ。抹茶を使ったレシピは、ソーシャルメディアで次々と拡散され、熱心なフォロワーによってますます広まる。抹茶ラテは今では、世界中のコーヒーチェーンの定番メニューだ。

抹茶に熱狂

中村藤吉本店の中庭は、黒松の古木が影を落とす、静かな日本庭園だ。

その静寂は午前10時ちょうど、茶店が開店すると同時に破られる。

客は、数十缶しかない30グラムあたり6000円余りの高級抹茶を求めて殺到する。スタッフは対応に追われる。

この店で一番高価な抹茶は、20グラムで6万円だ。

一番人気の抹茶は、数分のうちに売り切れる。完全な品切れを避けるため、1日あたりの販売量も制限されている。

黒い被覆資材で覆われた下に、茶葉が鮮やかな緑色に光る茶の木が並ぶ。中心に農家の人が立っている

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画像説明, 抹茶の元になる碾茶(てんちゃ)は、茶畑に覆いをかけて日光をさえぎる栽培法で育てられる。

健康志向

カナダ・ケベック州から店を訪れていたバンジャマン・ジェルヴェさん(15)はこの日、早朝から並んでいた。家族と一緒に近くの京都市に来ていたので、宇治まで行こうと説得したのだという。

「ソーシャルメディアでこの店のことを知って、来てみたかったんです。すぐに売り切れると聞いたので、開店前に着いて、抹茶パウダーを手に入れました」とジェルヴェさんは話した。

「抹茶ラテを作るつもりです。味がとても好きだし、カフェインも入っているので、一日の活力をもらえます。それに、体にもけっこういいし、抗酸化作用もあるし、緑のものを毎日とるのにちょうどいい」

米テキサス州から来たというレシュマ・ジョゼさんにとっては、今回が2度目の宇治訪問だった。

「昨年ここに来たときは、あまりたくさん買わなかったんです。その後になって抹茶ブームがものすごいことになって、何もかも売り切れてしまった。だったら大元へ行こう、抹茶を買いに宇治へ行こうと思ったんです」

抹茶不足

畳の上に茶碗を置き、茶筅(ちゃせん)で薄茶を点てている人の手元。茶碗の横には、漆塗りの黒い棗(なつめ、抹茶を入れる容器)の上に茶杓(ちゃしゃく)が置かれている

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画像説明, 抹茶愛好家は、最高級の抹茶は湯で点(た)てて飲むのが一番おいしいと勧める

中村藤吉本店の7代目当主で、茶店とカフェを統括する中村省悟氏は、抹茶の需要に供給が追いつかないと心配している。

「今日も見ていただいたとおり、朝の2、30分で全部なくなってしまいますので、品薄かと言われたら、もうものすごく品薄です」

生産者によると、抹茶の製造工程は複雑で、世界的な需要急増に対応するのが難しいという。

抹茶の原料となる「碾茶(てんちゃ)」を栽培する茶畑の約25%は、宇治周辺の丘陵地にある。残りは日本の他の地域で作られる。

茶の木は一定期間、日陰でゆっくり育てられる。摘んだ葉を乾燥させた後、石臼で粉末にする。石臼では、1時間に約30〜40グラムしか抹茶を作れない。

「お茶の木を植えてから、実際にお茶の葉を収穫できるまでに最低でも5年かかるので、たとえばすごく需要が増えたからといって、今日言って明日いきなり増やすのはちょっと難しい」と、中村氏は言う。

気候変動

プラスチック容器に氷を浮かべた牛乳が入り、そこに上から別の白い容器に入った濃い目の抹茶が注がれている

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画像説明, 抹茶ラテの人気が世界的に高まっている

日本はこの状況に対応しようとしている。農林水産省によると、抹茶の生産量は2010年以降ほぼ3倍に増え、年間4000トンを超えている。日本のメディアによると、政府は碾茶の栽培促進のため、農家向けインセンティブを計画している。

しかし、近年の猛暑を筆頭に、気候変動の影響が最近の収穫に打撃を与えている。日本の高齢化も、茶農家の減少につながっている。

日本が世界の抹茶需要になかなか応えられずに苦労する中で、世界的な抹茶人気が悪用されかねないと、中村氏は懸念している。

「何が抹茶なのかという基準がないので、中国でも作られたり、たとえば台湾でも作られたり、韓国でも作られたりしています。お茶の木は東アジア全体に広がっているので、要するにそれを粉にしてしまえば、何でも抹茶だっていう」

日本の抹茶業者は今のところは、世界的ブームを受け止めている。そして、抹茶ラテなどさまざまなレシピには、価格の比較的安いものを使うのがいいと推奨している。

他方、高級のワインやオリーブオイルと同じように、最高品質の抹茶はそのままお茶として味わった方がいいと抹茶の愛好家たちは言う。まるで日本の天皇のようにして。