■大学トレンド
進学先として海外の大学を検討する人も増えていますが、いま注目されているのが「ダブル・ディグリー・プログラム」です。日本の大学に在籍しながら、協定を取り交わした海外の大学に留学することで、両方の学位を取れる制度です。仕組みについて詳しく解説します。(写真=昭和女子大学提供)
期間を短縮して2つの学位を取得
「ダブル・ディグリー・プログラム」は、日本語で「複数学位取得制度」などと呼ばれます。単位互換制度を利用し、決められた期間に履修科目を修了すると、日本と海外の2つの大学の学位を取得できる仕組みです。
特長は、日本の大学に在籍したまま、海外大学の正規生として学位留学できる点です。2つの大学の学位を取ろうとすると、通常、両大学に計8年間在籍して卒業することが必要ですが、期間を短縮して2つの学位を取得できます。日本の大学の学費のみで済む場合もあり、費用の面からもメリットがあります。
昭和女子大学(東京都世田谷区)は、2014年度からダブル・ディグリー・プログラムを導入しました。その狙いを坂東眞理子総長は次のように話します。
「どの大学も留学制度は取り入れていますが、短期間の語学留学では、世界で通用する力は身につきません。『ダブル・ディグリー・プログラム』は現地の学生と同じ授業や試験を受け、単位を取得し、学位を認定する制度です。語学力を伸ばすのはもちろんのこと、深く内容を学ぶ経験を積み、その結果として学位という証明書を取ってほしいと思います」
同大学では、14年度に派遣を開始した中国の上海交通大学を皮切りに、現在は韓国のソウル女子大学校、淑明女子大学校、米国ペンシルベニア州立テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)、22年度からはオーストラリアのクイーンズランド大学の5大学とプログラムを実施しています。プログラムに参加する学生は、昭和女子大学で3年間、海外の提携大学で2年間、合計5年間学び、2か国での大学卒業資格を得ます。
高いレベルの語学力が必要
同大学でダブル・ディグリーを取得した修了生は、73人になりました(23年3月現在)。海外の大学の学位を取得するには、ネイティブの学生と同じ専門的な授業を受けるために高い語学力が要求され、相当な努力が必要です。このプログラムを希望する学生は、入学直後から集中的な語学講座や、留学に向けての心構えや履修に関する指導を受けて準備を進め、例えばTUJでは3年次の秋から留学します。プログラム参加が正式決定するのは1年次の終わり。GPA2.7(※1)以上という成績と、高い語学基準(※2)を満たすことが条件となります。
※1:GPA…Grade Point Average(大学の成績評価)
※2:協定校によって異なる。TUJの場合、IELTS6.0以上かTOEFL iBT79点以上が条件。
この制度を利用できる対象学科は、国際学科、英語コミュニケーション学科、ビジネスデザイン学科の学生です。学科により協定校やその専門は全く同じではありませんが、学ぶ内容は重なる部分が多く、さらには現地の語学や文学、歴史なども学ぶことができます。
「参加した学生で、高校時代に中国語や韓国語を勉強していた人は、ほぼいません。大学に入ってから語学を始め、集中的に勉強してから海外へ出るわけですが、なかには現地の学生を抑えてトップの成績を収めた学生もいます」(坂東総長)
海外協定校の授業料は、昭和女子大学に納入した授業料から充てられます。費用面から海外の大学進学を躊躇(ちゅうちょ)している人には、学びの機会が広がる制度です。また、TUJは外国大学の日本校で、昭和女子大学の敷地内にキャンパスがあります。学生の半数以上が外国籍で、授業はもちろん全て英語。課題も母語レベルの英語力が求められるため、高い語学力を身につけることができます。米国の総合大学に通うとはいえ、場所も授業料も日本の大学とほぼ変わらないというのは、経済面で大きなメリットがあります。
ダブル・ディグリー・プログラムは、東京大学、東京工業大学、一橋大学などの国立大学のほか、早稲田大学、慶應義塾大学、明治大学、立命館大学などの私立大学が導入しています。学修期間は2つの大学を合わせて4~6年間に設定されているケースが多く、修士まで取れるプログラムを用意している大学もあります。
厳しいハードルを乗り越えて自信に
坂東総長は、ダブル・ディグリー・プログラムのすばらしさを、もっと多くの人に知ってもらいたいと言います。
「2つの学位を取得するというのは、相当な自己研鑽をしたということ。学生にとっても、厳しいハードルを乗り越えたという自信につながりますし、世界の舞台で活躍するときの武器になってくれるでしょう。就職活動のときに『ガクチカ』(学生時代に力を入れたこと)を問う企業が多いようですが、大学でしっかりと学んだ経験は、もっと評価されるべきです。ダブル・ディグリー・プログラムの認知が広まり、大学時代に大きく成長した学生が、さらに社会で活躍することを願っています」
(文=柿崎明子)
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