テレビ朝日系の「報道ステーション」のメインキャスターを務める大越健介さん(62)が、報道現場の裏側や自身の仕事への思いをつづったコラムを一冊にまとめた。「ニュースのあとがき」(小学館)。NHKで「ニュースウオッチ9」のキャスターなどを務めてきたベテランが、活躍の場を民放に移し、2年半あまり。同じく夜10時台でキャスターだった久米宏さん、古舘伊知郎さんとは異なる大越流のニュースのさばき方とは。

 ――コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、安倍元首相銃撃事件、WBC侍ジャパンの優勝……。2021年10月にキャスターに就任してからの2年半をどのように振り返っていますか。

 気がついたらもう2年半で、あっという間です。凡庸な1日が積み重なると長いと感じると思いますが、国内外で色んなことが劇的に変わった。時代の変わり目の節目にこの仕事に就いているのは運命的なものを感じています。

 ――NHKを退職し、テレビ朝日の報ステのキャスターになるきっかけはありましたか。

 60歳が一つの節目だと思っていました。携わっていた「NHKスペシャル」や、渡辺恒雄さん(読売新聞グループ本社代表取締役主筆)にインタビューする番組の区切りもついて、自然な流れでした。特に大きな決断があったわけではありませんよ。

 ――「ニュースのあとがき」は、報ステのホームページで連載していたコラムを一冊にまとめたものです。コラムを書くことは「自己点検の一環」と書かれています。

 週末に1週間のニュースを振り返って、コラムを書いています。思いをめぐらすことが好きで大事な時間です。視聴者の皆さんと一緒に、2年半を振り返るきっかけになれば。

 また、普段の番組で感情を出し切っては、キャスターの振る舞いとして成立しません。その情の部分をコラムに書き、それをまとめたのが今回の本なのかな。

 ――本の中で、「テレビ報道では十分すぎるほどのベテランの域に達している。だが、経験を頼りにできない。ニュースは今を映し出すからだ」と書いています。

 40年近くも取材の仕事をしても、1人で経験できることは、森羅万象の極めて限られたこと。つい、小さな経験だけで語りたくなりますが、あまり意味がないと思っています。むしろ、その経験によって新しいことにどう反応するかが大事だと思う。

VTR後の一言に逡巡 

 ――「報ステ」のキャスターになった当初は、予定調和ではない、アドリブ感満載な番組を目指したい気持ちもあったそうですが、早々に変わったそうですね。

 「報ステ」は、NHK時代から番組自体のクオリティーが高いと思っていました。

 キャスターは、その日のニュースの取材や編集に当たったスタッフの努力を視聴者に届ける最後の役割を負います。ぎりぎりまで新しい要素を入れたVTRも、キャスターの一言で台無しになる可能性は常にあります。

 一方で、「機械仕掛けの人形」でもありません。放送で流れるVTRは事前の打ち合わせで、概要はわかりますが、本番の時に気がつくことがあったら、アドリブでコメントする時もあります。だけど、それは自分の思い込みかもしれないし、客観性がないかもしれない。元となるコメントの土台を作りながらも、「やめておこうか」「言ってもいいんじゃないか」と常にぐるぐる考えています。

 今は、無理に番組の質を壊す必要はないし、しっかりとつなげていきたいと思っています。外から来た自分がこの番組の中に入り、良い意味での化学反応が起きて、変わっていくことは僕の望むところだし、番組にとっても良いことだと思います。

 ――視聴者は、大越さんの問題意識を期待していると思います。

 そう言っていただくとやりがいがあります。どういう言葉、表情で、一言付け加えることによって、VTRだけで伝えきれないもどかしさを多少なりとも救えるかもしれないし、意味を整理できると思っています。それはコラムも同じです。

 ――ただ、元政治記者として、岸田政権について厳しく言った方がいいのでは。

 マスコミは公器で、公平公正で…

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