将棋の谷川浩司十七世名人(61)は15日、東京都渋谷区の将棋会館で第82期名人戦・B級2組順位戦の高見泰地七段(30)戦に臨んでいる。少年期の藤井聡太名人(21)が「憧れ」と名を挙げ、羽生善治九段(53)との激闘で平成棋界を彩った永世名人。15歳での順位戦初参加から46年。21歳での最年少名人から40年。「光速流」を代名詞とする棋士は、今も真夜中に至る熱く長い勝負を続けている。

 あの夜もまた、谷川浩司は眠ることができなかった。いつも変わらない。順位戦を戦い終えた後は覚醒した意識の中で深い夜を過ごし、気付けば朝を迎えている。

拡大する写真・図版谷川浩司十七世名人=2023年10月30日午後5時10分、東京都品川区、北野新太撮影

 2023年10月25日、名古屋将棋対局場で指された藤井猛とのB級2組順位戦5回戦はリーグ中盤の分岐点だった。藤井は前局まで開幕4連勝と走っていた。3勝1敗の谷川にとって、昇級戦線に食らいつけるか否かの勝負になった。

 「藤井さんとは過去に40局近く指してきた蓄積があるので、駒組みから工夫してくることは分かっています。始まってから戦い方を考えなくてはいけません」

 後手番で相三間飛車を選択した。事前研究の深さよりも、未知の局面における理解と読みが問われる一局を志向した。

 「自分で一手一手を考え出すことに充実感があります。若手と(事前研究による)最先端の将棋を戦いたい思いもありますけど、ねじり合いが続かないと勝負の価値は低くなると思っているので」

 革新戦法「藤井システム」の創始者と「光速流」の異名を誇る棋士による力比べの応酬。即興演奏のような妙技は見守る人々を高揚させる魅力にあふれた。

 「辛抱を強いられる局面が多かったのですが、少しずつペースを握れたのかなと」

 午後10時33分、終局。藤井が1敗を喫し、谷川は1敗を守った。

 感想戦を終えて宿に到着する頃、もう日付は変わっていた。谷川は同日に行われたB級2組の他の棋譜を眺める。当然、それぞれの勝敗も気になる。

 寝床に潜り込んだが、眠れない。午前10時から12時間半も稼働した頭脳も盤に向かった肉体も疲れ果てていたが、回転を続ける思考と勝負の熱が意識を覚醒させた。

 「横たわったまま眠れずにいた…

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