アウディが画期的なデザインともいえるロードスターのコンセプトモデルを発表した。時は2025年9月2日。場所はミラノ。
デザインコンシャスなブランド 徹底した高品質の作り込み
アウディといえば、近年はもっともデザインコンシャスな自動車ブランドとして知られてきた。
ブリスターフェンダーの「クワトロ」(1980年)、空力デザインの第3世代「100」(82年)、ショートデッキスタイルの第3世代「80」(86年)、アーチ型のルーフラインが印象的だった「A6」(97年)、超低燃費とパッケージングのよさを追求した「A2」(2000年)がぱっと思い浮かぶ。
忘れてならないのは、98年に送り出されたアウディ「TT」だ。ちょっとレトロ風味で、いままで見たことのないスタイルと、あらゆる細部にいたるまで徹底した高品質の作りこみ。
ここで注目して欲しいのは、今回の「コンセプトC」のデザインを指揮したアウディのマッシモ・フラチェッラ氏が、かつてのアウディTTの大ファンであること。
「最初のアウディTTは衝撃的でした。私が当時住んでいたトリノのショールームに置かれたその日、私は会社を休んでディーラーで終日、実車のデザインを眺めたものです」
トリノのスティーレ・ベルトーネで自動車デザイナーの道を歩みはじめ、フォードUKや起亜を経て、ジャガー・ランドローバーで目をみはるぐらいスムーズな表面処理をしたレンジローバー現行モデルを送り出したのがフラチェッラ氏だ。
ミラノの会場で時計の針が夜の8時45分を指すと、アウディ本社のゲルノート・デルナーCEOと、フラチェッラ氏の合図で、世界中から集まったゲストを前に「コンセプトC」なるモデルがお披露目された。
かつての要素も巧みに取り込んだ 明瞭なデザイン
たしかに、ウィンドーグラフィックスなどは、TTの、それも95年発表のプロトタイプを思わせる。車体の厚みを強調したサイドビューなど、あたらしいが、どこかに既視感がある。
戦前の「タイプC」と呼ばれたアウトウニオン(アウディの前身)のGPマシンを連想させる新意匠のグリルや、2000年のプロトタイプ「ローゼマイヤー」のようなリアクォーターパネルなど“発見”をあげていくのもたのしい。
「以前のモデルのデザイン要素をあえて取り込みました」と会場で語ったフラチェッラ氏。
「TTはクルマ以上の存在。いわばメッセージです。自分の考えを伝えるのに大声を出す必要はなく、明瞭であればよいとわからせてくれました」。フラチェッラ氏の評価がそのまま、コンセプトCにも当てはまると私は思った。
「本質的なところまで、あらゆるものをそぎ落とすことが、装飾過剰の現代にあって、見ているひとの感情を揺さぶる手段なのです」
アウディでは「コンセプトC」発表の場所としてミラノを選んだ理由を「ルネサンスゆかりの地だから」としている。アウディデザインもここで“再生”するという意気込みの表れだそうだ。
飛躍はかるアウディ 数年後の発売をたのしみに
アウディには、BMWとメルセデス・ベンツという強力なライバルがいる。レクサスにもアウディが築いてきた市場の一角を削りとられようとしている。
そこにあって、「明快さの追求」(Strive For Clarity)を掲げて、独自路線を目指し、F1参戦などで、飛躍をはかるアウディ。
「数年後にだいたいこのままのかたちで登場します」とフラチェッラ氏がいう「コンセプトC」(市販の車名は未発表)。諸元は未公表なので、全貌(ぜんぼう)がつかめないが、それでも発売をたのしみにしたい。
写真:Audi AG

















